建築基準法や条例に違反した物件

長年住んでいた建物を手放す際に、違反建築物との指摘を受けることがあります。
法令の改正や用途地域の見直し等による不可抗力はもちろん、増改築を行いながら大切に住み続けてきたからこそ法に引っかかる場合もあり、一口に「違反」と言ってもその理由はさまざまです。
違反建築物には、次のようなケースが挙げられます。

1.容積率・建蔽率オーバー

建物の容積率・建蔽率は、用途地域によって上限が定められています。
住居系の地域の場合は、建蔽率が30%から60%。容積率は、第一種・第二種低層住居専用地域で50%~200%、第一種・第二種中高層住居専用地域で100%~300%、第一種・第二種住居地域と準住居地域で200%~400%となり、これらの規定を超える場合は違反となります。
既存の建築物に対して増改築を繰り返し、容積率・建蔽率をオーバーするケースが一般的と言えます。
10平方メートル以内の増改築は建築確認申請が必要ないため、工事を頼んだ際はもとより、日曜大工の延長で増改築を行った場合の確認不足によって、容積率・建蔽率オーバーが起こり得ます。
逆に、あえて違反をしてガレージを建てたり、離れを作るようなケースもあります。
また、増改築以外にも、ビルトインガレージを居住用の部屋にリフォームした場合は注意が必要です。
これまで車庫用途で使用していたために制限を緩和されていた床面積が、居住用となったことで述べ床面積に加算され、容積率を超えて違反となる場合があります。
いずれも、外から見て明らかに分かるような状態ではない限りは指摘を受けることがなく、手放す段階まで違反建築物であると気付き辛いケースです。

2.斜線制限に抵触してしまっている

建物には、隣接している道路や敷地の日照・通風を確保するための斜線制限が定められています。
建築基準法第56条には、すべての用途地域の建物に対して定められた道路斜線制限の他、第一種・第二種低層住居専用地域以外の建物に対して定められた隣地斜線制限、第一種・第二種低層住居専用地域と第一種・第二種中高層住居専用地域の建物に対して定められた北側斜線制限の三種類があり、新築・増改築時にはこれらの制限を守らなくてはなりません。
建築確認申請の必要がない増改築を繰り返して抵触してしまうケースの他、増改築を行おうとした既存建物が実は抵触していたと分かる場合もあります。
既存建物をそのまま利用する場合は建て替える必要はありませんが、増改築を行う際は制限以内に納める必要があります。

3.アスベストが使用されている

アスベスト(石綿)は保温・断熱・防音等の目的で、建築ラッシュの1960年代より大量に輸入され、建築物等に使用されてきました。
しかし飛散した繊維を吸い込むことで健康被害を受けることが分かり、昭和50年には吹き付けアスベストが原則禁止に、その他についても段階的に使用が規制されています。
アスベストは、比較的規模の大きい鉄骨造の建築物の壁・床等に吹き付けて使用されている場合と、屋根・壁・天井等にアスベストを含んだ建材が使用されている場合があります。
いずれも規制前に建築された建物である場合が多く、増改築や建て替え時にどのような処理をするかが課題となります。

違反建築物の売却について

違反建築物は「法律に違反している」という非常に癖の強い物件です。
しかし、売却のために建築基準法に適合するよう改築しなおすのは、現実的とは言えません。
これらの違反建築物は、違反である旨を必ず伝える必要がありますが、売却自体は禁じられていません。
そこで重要になるのが、違反のデメリットを上回るメリットを買主側に伝えられるかどうかです。

違反建築物
たとえば、容積率・建蔽率オーバーの物件を見てみましょう。
確かに用途地域に定められる規定を違反していますが、それは裏を返せば、同じ地域でより大きな建物に住む事ができるという利点に繋がります。
ロフトに天井版を張ったり、一度リフォームした居住スペースをビルトインガレージに戻すといった改築を行った上で売却するよりも、広々と使える状態というメリットを取ってくれる買主を見つけることができれば、建物の価値を下げることなく売却することができます。
容積率・建蔽率オーバーへの監視が緩かった時代には、あえて規定をオーバーしている物件を選んで買い求めるような向きもあり、「広い」というメリットは違反建築物であることを差し引いても魅力的なポイントです。
また、斜線制限については、本当に制限に抵触しているかを確認することが重要です。
平成15年1月に建築基準法が改正され、斜線制限は天空率の採用により緩和されるようになりました。
天空率とは、測定点から180度の超広角魚眼レンズで空を見上げるような状態で、建物によって空が遮られていない割合を示します。
日照・通風を確保し閉塞感を無くすための規制である斜線制限に対して、空が開けていれば明るく開放感を得ることができるという観点から導入された天空率は、建築の自由度に大きく影響しています。
過去に「斜線制限に抵触している」と言われた物件であっても、天空率の制限に適合すれば違反にはならないため、改めて調査をしてみるとよいでしょう。
最後に、アスベストについて。これは厳密には違反建築ではありません。アスベストが健康被害を及ぼすのは、何らかの要因によって飛散する可能性がある時だけです。
先に挙げた二種類のうち、吹き付けアスベストの場合、吹き付け部分が露出しており、かつ、劣化の進行が著しい状態のみ早急な除去・補修が必要となります。
建材として利用されているアスベストは固定化されているため、損傷していない状態であれば飛散の恐れはなく、建材をまるごと取り外すことで除去できます。
また、規制前に建築されたアスベストが使用されている建物については、増改築時にアスベストの除去が義務付けられていますが、増改築面積がそれ以前の床面積の1/2を超えない場合・修繕や模様替えの場合は、除去ではなく封じ込めや囲い込みの措置が許容されており、工事費用を抑えることができます。
アスベストの使用状況と増改築の規模によっては、建物自体を取り壊すことなく、安全に利用できる状態で売却することも可能です。

違反建築物売却時の注意点

違反建築物の売却は可能ですが、違反建築物であるという旨を重要事項説明として伝える必要があります。
購入後に建物自体を建て替える際、容積率・建蔽率・斜線制限に違反していた場合は、元と同等の規模の建物にすることはできません。
更に、滅多にないケースですが、行政による是正措置が命じられる可能性もあります。
また、住宅ローンの審査基準として「建築基準法に適合しているか」という項目があります。
建築物が許容範囲外の違反であった場合は融資対象外となるため、抑えた価格でしか売却できないケースも見られます。
このように、違反建築物は買い手を選ぶ物件となりますが、違反に関するデメリットを補って余りある魅力のある建物は、購入を希望する買主も少なくありません。
売主と買主の間で求めるものを見極め、互いに納得した上で売却することが肝要と言えます。

売却事例

Kさんから、平成6年に建てた、建売住宅の売却に関して査定依頼のご連絡をいただきました。

お問い合わせ後、さっそくKさんのご自宅を拝見しました。Kさんが所有する一戸建ては、つい1ヶ月ほど前までは、賃貸物件として第3者が居住していました。

築後20年近く世田谷区の閑静な住宅地内にあり、近くには大きな公園やスーパーマーケットがある人気のエリアでした。
休日にはフリーマーケットや、様々なイベントが催される、ファミリー向けのとても住みやすい住環境です。
建物は賃貸に出されていたこともあり、幾分かリフォームが必要な状態かと思われました。
しかし、Kさんとしては、リフォームをしない現状のままで売却したいというご意向でした。
新たな買主様が、最低限必要なリフォーム代金分は、内装や水回りを含めて200万円程かかる旨をご説明した上で、売却価格の査定額をお伝えしました。

違反建築物
しかしK様の物件には、売却するにあたり少々問題がありました。
一言で言うと容積率オーバーの違反建築物に該当していたのです。

Kさんが家を建てた平成6年頃の建売住宅事情は、購入するお客様にとって少しでも大きな家を、と小屋裏部屋などを作って延べ床面積を稼ぐ建売住宅がまだ多くありました。
小屋裏部屋とは、建物登記簿上には存在しない、ロフトや屋根裏の空間を居室に加工した部屋です。
特に閑静な住宅地では、第一種低層住居専用地域・第一種高度地区に指定されていて、2階建てしか建てられないエリアが多くあります。
しかも建蔽率50%、容積率150%ならまだしも、中には建蔽率50%・容積率100%、更には建蔽率40%・容積率80%のエリアも存在します。
Kさんの一戸建てはこのとおりです。

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用途地域:第一種低層住居専用地域
都市計画:第一種高度地区
建蔽率:50%
容積率:100%
敷地面積:約25坪(約82㎡)
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建築基準法上では敷地面積25坪に対して、容積率が100%なので、延床面積も25坪までとなります。
しかし、Kさんの一戸建ての延床面積は、小屋裏部屋も合わせて約30坪弱建てられておりました。もちろん、閑静な住宅街に住みたいけれど、建物は大きいほうがいいとお考えの方はたくさんいらっしゃいます。
しかし、このような物件を購入したいと考えた時に、買主様にはある問題が発生します。
現在の住宅ローンの審査基準では、建築基準法に不適合な物件であった場合、ローン審査に影響します。中古物件とはいえ、マイホームを現金で購入できる方は多くありません。
しかし、仲介する不動産業者としては、買主様には違反建築物である旨を重要事項説明書に記載して説明する義務があります。
もちろん、ローン審査に必要な書類として金融機関にも提出が必要です。

Kさんには違反建築物の売却時のデメリット等をご説明しました。
Kさんは住宅ローン審査の厳しさはあるが、環境の良さと建物を広く使用できるメリットを大きく感じてもらえるような買主を見つけて欲しい、と売却をご希望されました。

ロケーションがとても良い物件だったので、Kさんの一戸建ての売却は、現地にてオープンハウスを行うことにしました。
期間にすると1ヶ月でしたが、週末は必ず現地に立ち、家の前を通る方や、フリーマーケットや公園に訪れた方々にお声掛けをしたりして、建物内を直接内覧していただきました。

そして、内覧していただいた方の中で、無事に購入の申し込みをいただけました。
買主様にはお申し込み前も、契約前の重要事項説明の中でも、この物件が違反建築物である旨のご説明もしました。
肝心の住宅ローンの審査ですが、銀行が違反建築物に対してを融資をし辛いというだけで絶対ではありません。
そして今回は買主様のお勤め先等の属性の良さがプラスとなり、金融機関の中でも、容積率オーバーの許容範囲の問題を何とかクリアしていただきました。

Kさんの物件はデメリットもあり、買い手を選ぶ物件ではありましたが、今回の買主様はまさに住環境の良い低層住宅地で、なるべく広い家が欲しかったと希望されていたため、デメリットを上回るメリットを感じて選んでいただけました。